内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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経腸栄養剤固形化によるGER予防の効果

ふきあげ内科胃腸科クリニック   蟹江治郎
臨床栄養 2004; 104(6): 744-748.

T 固形化経腸栄養剤の知識
1.液体経腸栄養剤の問題点(図1)
 人間は栄養分の補給を主として固形物の形態で摂取する.摂取した食物は胃内に入った後,噴門と幽門といった2つの生理的狭窄により,その移動の制限を受け一定時間胃内に保持される.しかし経管栄養投与症例においては,チューブを介して栄養剤の滴下注入で行うため,摂取する食物は液体の形態となる.しかし液体は固形物に比較して流動性が高く,噴門や幽門の通過が容易になるという問題点を持つ.栄養剤が噴門を容易に通過すれば胃食道逆流(Gastro Esophageal Reflux:以下GER)となり,幽門の通過が多くなれば下痢の原因にもなりうる(1).また胃瘻症例においては,瘻孔からの栄養剤漏れである栄養剤リークの原因にもなる(2)(3).
2.固形化経腸栄養剤の定義
 経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:以下,PEG)が普及する以前,高齢者や寝たきり状態などのハイリスク症例における経管栄養の投与経路は,簡便に留置が可能である経鼻胃管が主たる経管栄養投与法であった.経鼻胃管栄養で用いる栄養管は,PEGで用いる栄養管に比較して細径で長く液体以外の注入は不可能である.しかしPEGで用いる栄養管は経鼻胃管のものに比較して太経で短く,ゲル化した経腸栄養剤の注入が可能である.筆者は栄養剤をゲル化し“重力に抗してその形態が保たれる”硬さとしたものを“固形化経腸栄養剤”と定義し,液体経腸栄養剤より生理的で合併症の少ない方法として報告を行っている(4).この固形化経腸栄養剤を利用した経管栄養投与法は,PEGを利用して注入が可能な新しい経管栄養投与法の提案である.

3.固形化経腸栄養剤の効果
 固形化経腸栄養剤で得られる効果は,栄養剤の流動性の低下によりみられるもので,GERの減少,下痢の予防,栄養剤リークの防止がある(図2).GERの減少により呼吸器感染症の頻度は減少し,注入も短時間で行えるようになる(5).短時間の注入が可能になることにより介護者の負担は軽減し,注入中の体位変換の中断も不要になるため褥瘡の発症および悪化が防止できる(6).

U 固形化経腸栄養剤のGERの予防
1.液体経腸剤と固形化栄養剤のGERの比較
 筆者は固形化経腸栄養剤で実際にGERの減少が得られるかの検討を行い,Journal of the American Geriatrics Societyへ報告を行った(7).この検討ではPEGにより経腸栄養管理を行い状態の安定している症例に対し,液体経腸栄養剤の注入後と固形化栄養剤の注入後でのGERの頻度を,CTを用いた画像診断で比較を行った.その結果,液体経腸栄養剤でGERを認めた症例は17名中10名であったのに対し,固形化経腸栄養剤への変更後もGERを認めた症例は17名中4名と,統計学的に有意な減少を認めた.これにより固形化経腸栄養剤は単に理論上のみならず.実際臨床上においてもGERの頻度を減少し得る事が証明された(表1).
2.固形化経腸栄養剤の導入によりGERの改善した症例
 筆者は介護老人保健施設においてPEG管理を受け,液体経腸栄養剤による様々な合併症を持つ症例が,固形化経腸栄養剤への変更後に,状態の改善が得られた症例を日本老年医学会雑誌に報告を行った(8).症例は85才の女性.脳梗塞後遺症のため嚥下困難となりPEGによる栄養管理を受けていた.本例はPEG造設後,一時期は安定した状態が続いていたが,その後,経腸栄養剤を含む流涎,栄養剤リーク,反復する嘔吐,嚥下性肺炎など液体経腸栄養剤に起因すると思われる合併症が出現,固形化経腸栄養の導入の運びとなった.固形化栄養剤への変更後は,多くの症状は直後から消失し,変更2週間後には全ての症状は消失した(図3).

V 固形化栄養剤の調理法と投与法
1.調理法の実際
 固形化経腸栄養剤のゲル化剤は市販の寒天粉末を用いる.ADLの低下した症例における経管栄養管理では,経腸栄養剤原液のみの注入では栄養過多となることが多く,多く場合は必要となるカロリー分の経腸栄養剤に,必要とする水分量を加え注入を行う.固形化経腸栄養剤の調理では,この必要とされる水分を寒天溶液として経腸栄養剤と混合した後にゲル化して注入を行う.原則として液体は注入しない.調理は加熱する前の水と粉末寒天を混合し,混合後加熱し2分間煮沸して寒天溶液を作る.加熱したあとの熱湯に寒天を入れると,寒天が“ダマ”になり溶解しにくくなるので注意が必要である.その後,寒天溶液と人肌程度に加熱した経腸栄養剤を混合し,投与容器に注入して凝固する.寒天は40度以下でゲル化が得られるため室温に静置するのみでも良く,調理後24時間以内に注入が出来る場合は冷蔵保存が不要である(9)(図4).
2.なぜ寒天でゲル化するのか
 筆者は固形化経腸栄養剤を実施するためのゲル化剤に必要な条件として安価,入手が容易,調理が容易,硬度調節が容易,低カロリー,粘度を増さない,ゲル化後に体温で溶解しない等の条件を設定し,その選定を行った.固形化経腸栄養剤で用いるゲル化剤の候補としては粉末寒天,ゼラチン,全卵を候補に挙げ検討したが,その中では粉末寒天が最も要求に叶うものと考えている(表2).筆者は固形化栄養剤の硬さを杏仁豆腐程度の硬さに調理を行い,調理のために必要な寒天は,希釈した後の経腸栄養剤の分量200ml程度に対し粉末寒天1g程度を目安にしている.しかし,経腸栄養剤の組成により硬度は変化するため,事前に調理を行い確認する必要がある.
3.固形化栄養剤の投与法
 固形化経腸栄養剤は調理過程の液体の状態で投与容器に入れてから凝固させる.投与容器としてはプラスチックシリンジが多用されるが,ドレッシングポットが使われることもある(10).固形化栄養剤の注入は数分かけて一括に行い座位の保持は行わない(図5).1回の注入量は液体経腸栄養剤の1回量と同量にしているが,症例の状態によっては注入中に嘔気を来すこともある.注入中は嘔気が出現しないかを注意深く観察を行い,嘔気が生じるときは注入を一旦中止し時間を空けて再注入を行う.1回の注入量が多く耐えられない場合は,1回注入量を減らし注入回数を増やすようにする.
W 固形化経腸栄養剤の課題
1.固形化栄養開始後に発生する便秘
 PEGの対象例の多くは寝たきり状態などADLの低下した症例であり,もとより便秘状態のことが多い.この様な便秘状態の症例が経管栄養の対象となり液体経腸栄養剤の投与を受けると,液体経腸栄養剤の緩下作用が便通の改善に働き便秘が改善する場合がある.この様な症例に対し固形化栄養を導入すると便秘状態に回帰することになる.そのため固形化経腸栄養剤の導入を計画した場合,対象症例が便秘の場合は予め便通を改善しておき,固形化剤の開始後も排便状態について充分な観察が必要である.

2.院内ネットワークへの配慮

 固形化経腸栄養剤の投与を実施する施設においては,経験したことのない調理,代用品を利用した注入器,初めての投与法という3つの新しい工程を避けることは出来ない.また現状において全ての経管栄養剤は液体であり,固形化栄養剤が液体に比較して生理的な形態であっても“常識的な方法”ではない.そのため本法の導入にあたっては,患者本人,家族,医師,看護師,薬剤師,栄養士の全てが固形化栄養剤の知識と意義を理解する必要があり,仮に一部署の理解が欠けても運用の妨げとなる.よって大規模病院において固形化栄養剤の導入が検討された場合,その導入に積極的な部署が,予め他の部署に対し充分な教育と啓蒙に務め,全部署に共通の認識が得られた後に固形化栄養剤の導入を行う必要がある.

文 献
(1) 蟹江治郎:PEG管理の新しいアプローチ@ 固形化経腸栄養剤の効果.胃瘻PEGハンドブック,第1版,東京,医学書院,117-122,2002
(2) 蟹江治郎、河野和彦,山本孝之、赤津裕康,下方浩史,井口昭久:老人病院における経皮内視鏡的胃瘻造設術の問題と有用性.日本老年医学会誌 1998; 35(7): 543-547
(3) 蟹江治郎:内視鏡的胃瘻造設術における術後合併症の検討 - 胃瘻造設10年の施行症例より -.日本消化器内視鏡学会雑誌 2003; 45(8): 1267-72
(4) 蟹江治郎,赤津裕康,各務千鶴子:経腸栄養剤固形化によるPEG後期合併症への対策.臨床看護29(5): 664-670,2003
(5) 三浦眞弓:嚥下性肺炎の予防と褥瘡完治につながった経腸栄養剤固形化の取り組み.臨床老人看護10(5): 29-34,2003.
(6) 藤田和枝:経管栄養剤固形化による利用者のQOLの向上.コミュニティーケア10(5): 53-55,2003.
(7) Jiro Kanie, Yusuke Suzuki, Hiroyasu Akatsu et al: Prevention of gastro-esophageal reflux by an application of half-solid nutrients in patients with percutaneous endoscopic gastrostomy feeding. Journal of the American Geriatrics Society 2004; 52(3): 466-467.
(8) 蟹江治郎,各務千鶴子,山本孝之,赤津裕康,鈴木裕介,葛谷雅文,井口昭久:固形化経腸栄養剤の投与により胃瘻栄養の慢性期合併症を改善し得た1例.日本老年医学会雑誌;39(4): 448-451,2002.
(9) 蟹江治郎,鈴木裕介,赤津裕康,各務千鶴子:固形化経腸栄養剤の実施における栄養剤の安定性と安全性の評価 −調理によるビタミンの変化と細菌学的変化−.静脈経腸栄養 2004; 19(1): 65-69
(10) 富樫美絵,加賀山美紀,黒井綾子ほか:粉末寒天を用いた経腸栄養剤固形化によって胃瘻瘻孔からの栄養剤漏れはコントロール可能か.第7回HEQ研究会誌:34,2002

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