内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
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経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を用いた栄養管理について
 - 前編・内視鏡的胃瘻造設総論 -

蟹江治郎*

*愛知県厚生連海南病院内科
 
医学書院 訪問看護と介護 1998; 13(4): 299-307 1998/04

はじめに
  経皮内視鏡的胃瘻造設術(以下PEG)が,初めて発表されたのは現在より20年あまり前である1980年のことです.その後,この経腸栄養投与法が従来の方法に比べ多くの利点を有することが証明され,現在も多くの報告が成されています.現在、この方法は欧米を中心に普及しており、米国においては年間10万件ものPEGが行われています。我が国においては、ここ数年で急速に普及して来たとはいえ年間二万件程度で、高齢者人口の割合を考えても、その適応の考え方に大きな相違(優劣?)がみられると言えます。また,米国のナーシングホームにおいては,経腸栄養のルートが経鼻胃管の場合は受け入れを拒否するが,PEGの場合は受け入れが可能な場合が多いそうです.日本の場合はその逆のケースが多く,管理の点においても認識の相違がみられます.
 この相違が生じているの原因の一つには,老人医療を携わる医療従事者に対してPEGの紹介が充分成されていない状況が考られます.本編においては,PEGの初歩から応用まで幅広くふれました.PEGは慢性期の栄養投与法として,非常に多くの利点があります.一方,他の栄養投与法にはない問題点もまたあります.PEGを経験されたことがない方々は,それらの利点や欠点を充分把握された上で,PEGを始めていただきたいと思います.またPEGの管理についての疑問をお持ちの方は,本編が少しでもお役に立てればと希望いたします.本編は前後編より成り,前編では内視鏡的胃瘻造設の総論的を,後編ではその管理について記しました.前編において説明する項目を以下に示します.
  1.内視鏡的胃瘻造設術とは何か?
  2.何故PEGなのか?
  3.PEGの利点と欠点I(経鼻胃管との比較)
  4.PEGの利点と欠点 II(中心静脈栄養との比較)
  5.PEGの利点と欠点 III(開腹手術による胃瘻造設との比較)
  6.PEGの適応
  7.PEGの禁忌
  8.PEGの施行困難例
  9.PEGの施行方法
  10.PEGの各手技の特徴
  11.PEGチューブの構造
  12.PEGの合併症
  13.PEGの術前術中管理
  14.PEGの術後管理
  15.PEGの術後経過について
  16.インフォームドコンセント
  17.悪性腫瘍へのPEG
 
1.内視鏡的胃瘻造設術とは何か?
  内視鏡的胃瘻造設術とは,内視鏡を利用して胃瘻を造る方法です.胃瘻とは皮膚から胃につながる瘻孔のことです.瘻孔とは生体内のトンネルのことです.つまり内視鏡的胃瘻造設術とは,内視鏡を用いて体表から胃へとつながるトンネル(図1)を造ることです.内視鏡的胃瘻造設術は,英語でPercutaneous Endoscopic Gastrostomyと言い,略してPEG(ペグ)と言います.
  瘻孔…組織の管腔状の欠損(つまりトンネル)のこと
  胃瘻…胃の内腔と皮膚表面を交通する瘻孔 のこと
  胃瘻栄養…胃瘻を利用して胃内に経腸栄養剤を注入する栄養管理
 
2.何故PEGなのか?
  私が研修医として勤務した病院は800床を越える大規模な総合病院で,神経内科病棟だけでも60名程度の入院患者さんがみえました.それだけの規模の病棟でしたので,経鼻胃管を必要としていた症例は常時20名前後で,そのチューブの交換は研修医の仕事でした.よって神経内科での研修中は,来る日も来る日も経鼻胃管チューブの交換に明け暮れ,その管理上の問題点については骨身にしみて体験することが出来ました.
 研修終了後は老年科へ入局,高齢者医療を専門として老年科ならではの領域を模索する日々が続きました.その際,当時ほとんど行われていなかったPEGの情報を入手し,研修中に苦労した経験も手伝い,この経腸栄養投与法に興味を持つようになりました.
 私がPEGを始めた初期は,合併症に対しての対策が充分でないことや,予想もしなかった合併症の存在から”もうPEGは要らない”と,お手上げになる病院もありました.しかし経験が積み重ねられるにつれ合併症に対しての対応もマニュアル化し,管理も経鼻胃管に比して格段に容易であることから,今ではナースサイドから”早く胃瘻に変えてほしい”との要望がでる症例も増えてきています.管理が容易になるという事は,PEGにより在宅管理が可能になる症例の適応が拡大されるという事です.よって急速に高齢化が進む我が国において,PEGは今後重要な栄養アセスメントとなるといえます.
 
3.PEGの利点と欠点I(経鼻胃管との比較)
 利点
 1)チューブの交換手技が容易(チューブが肺に誤挿入される事も無い)
 2)チューブの交換間隔が長い
 3)自己抜去がほとんどない
 4)上記理由より、在宅管理の可能性が広がる
 5)胃噴門機能に影響せず、胃食道逆流を減少させ得る
 6)鼻咽頭および食道潰瘍の合併がない
 7)違和感が少ない
 8)経鼻胃管からの移行により、意識状態の改善を診た症例がある
 9)経鼻胃管からの移行により、経口摂取が可能になった症例がある
 10)顔面付近にチューブが無い事による心理的好影響と美容上の改善がある
欠点
 1)胃瘻造設時に内視鏡処置および、内視鏡技術修得医を必要とし、2名の医師が必要
 2)胃瘻造設により胃食道逆流を誘発し、嘔吐回数が増加する例がある
 3)外科的処置による合併症がある
 4)家族の同意を得る繁雑さがある
 
4.PEGの利点と欠点 II(中心静脈栄養との比較)
 利点
 1)経管栄養自体が生理的栄養補給であり、褥瘡などの合併症が少なくなる
 2)在宅管理が容易
 3)カテーテル感染が少ない
 4)入浴が容易に可能
欠点
 1)胃瘻造設時に内視鏡処置および、内視鏡技術修得医を必要とし、2名の医師が必要
 2)胃瘻造設により胃食道逆流を誘発し、嘔吐回数が増加する例がある
 
5.PEGの利点と欠点 III(開腹手術による胃瘻造設との比較)
 利点
 1)合併症が少ない(全身麻酔を必要としないため)
 2)局所麻酔のみで行いうる
 3)ベッドサイドで施行できる(老人病院でも行える)
 4)短時間で行える(5〜15分程度)
 5)早期からの栄養投与か可能
欠点
 1)胃瘻造設時に内視鏡処置および、内視鏡技術修得医を必要とし、2名の医師が必要
 2)PEGでは挿入困難な例がある(食道狭窄例、切除胃)
 
6.PEGの適応(表1)
  PEGの利用目的には,経腸栄養としての使用する場合と,イレウスに対する腸管減圧としての利用の二つの目的が挙げられます.
 経腸栄養として利用する場合には,その原疾患に縛りはありませんが,基本的には非可逆性に経腸栄養を必要とする状態の症例に対して行います.つまり,脳卒中の症例のみならず,癌性の悪液質による食指不振の症例に対しても適応となる場合があります.またクローン病のように成分栄養剤のみで栄養補給を行わなければならない場合も,PEGより栄養剤を注入し社会復帰をするといった症例も増えています.可逆性の嚥下障害を有する症例(耳鼻科領域の術後,嚥下訓練中の症例等)に対しては,その期間が数カ月程度であればPEGを行うという意見と,行うべきで無いという意見があります.
 腸管減圧に対してPEGを必要とする場合においても,やはり原則的には非可逆性の状態が適応となります.最も頻繁に遭遇する適応としては,癌性腹膜炎に伴うイレウスの症例があげられます.この様な症例では,経鼻的イレウス管からPEGに置換することにより,本人の苦痛が除去されるのみならず,流動食の経口摂取や,在宅IVHの併用により外泊または退院が可能になります.また可逆性のイレウスにおいても,症例が痴呆等で不隠がありイレウス管を頻回に抜去する場合は,抜去不可能なPEGチューブを挿入する場合もあります.
 
7.PEGの禁忌(表2)
 PEGの禁忌には,全身状態の悪い場合,胃-腹壁間に他臓器または腹水が存在する場合,そして内視鏡挿入が出来ない場合があります.しかし腹水の場合は,一時的に抜水した後に施行する場合があります.
 
8.PEGの施行困難例
 施行困難例のほとんどは,胃手術後で胃が小さくなっている場合です.胃術後の症例は,その術式にもよりますが,1/4〜1/3の症例はPEGが施行できません.よって,胃手術後の症例にPEGを薦める場合は,予め施行困難例であるという事を伝えることが必要であると思います.ただ非手術胃でも,まれに施行し得ない場合があります.成書には肥満や開口困難がある症例は施行困難であるとありますが,実際の経験上では問題ありません.
 
9.PEGの施行方法(図2)
 PEGは内視鏡を用い,通常は内視鏡室で行いますがベットサイドでも可能です.
施行方法を以下に記します.
 1)内視鏡を挿入する
 2)送気を行い胃を拡張し,胃壁と腹壁を密着させる
 3)用手圧迫にて刺入点を決定する
 4)刺入点を局所麻酔する
 5)チューブを挿入する
 6)チューブを固定する
 
10.PEGの各手技の特徴(図3,表3)
  PEGの手技には、大きく分けて2種類あります。一つは、腹壁からチューブを直接挿入する”イントロデューサー法”です。もう一つの方法は、腹壁から胃へガイドワイヤーを挿入し内視鏡を用いて口腔から導出した後、それを用いて口腔からカテーテルを挿入するもので、チューブを牽引(プル)してチューブを留置する”プル法”と,チューブを押し入れ(プッシュ)チューブを留置する”プッシュ法”があります。
 現在,主流となっている手技はプル法とプッシュ法(以下プル/プッシュ法)です.この方法は,チューブが造設時に口腔内を通過するため,局所皮膚感染が多くなる傾向にありますが,チューブが強固でトラブルが少ないのが特徴です.プル/プッシュ法のキットには,チューブの交換時に内視鏡下で行うものと,内視鏡を必要としないものがあります.チューブ交換時に内視鏡を必要とするキットは,自己抜去不能なチューブなので重度な不隠を認める症例において有用と考えられます.
 イントロデューサー法は清潔で簡便な手技です.胃瘻造設チューブには,胃内固定板がバルーン型式のものと,非バルーン型式(マレコット式)のものがありますが,何れのものもチューブトラブルが多く,課題の多い術式です.
 
11.PEGチューブの構造(図4,図5,図6)
  PEGのチューブの特徴は,チューブの位置を固定する2つの固定板にあります.固定板の一つは体表面にあり,体外固定板と呼ばれています.もう一つの固定板は胃内にあり,胃内固定板と呼ばれています.(図4) 体外固定板の役割は,PEGチューブが胃の蠕動に伴って腸の中に入ってしまうのを防ぎます.胃内固定板の役割はチューブの抜去の防止で,その形状には板型,マッシュルーム型,バルーン型,マレコット型等があります.(図5) 
 また,通常PEGチューブの長さは約20cm程度ですが,腹壁から突出していない”ボタン型と呼ばれるものもあります.(図6) このチューブは腹壁から突出している部分がないため,クローン病の如く胃瘻造設後に社会復帰を果たす症例や,痴呆などによりチューブを自己牽引してしまう症例に適応となります.一方,自費で接続チューブを購入する必要があり,経腸栄養剤の接続作業が一般の胃瘻チューブに比してやや煩雑であるなどの問題点もあります.
 
12.PEGの合併症(表4)
  PEGの合併症には,術後急性期に発生する合併症(=入院時に発生する合併症)と,慢性期に発生する合併症(=在宅管理時に発生する合併症)があり,急性期合併症には感染性合併症と非感染性合併症があります.急性期合併症の中で高頻度のものは,呼吸器感染症と創部感染症です.呼吸器感染症は仰臥位での胃カメラ挿入により誤嚥が生ずるために発生すると考えられています.合併症とその対策については,次号後編で詳細にふれる予定です.
 
13.PEGの術前術中管理
 1)術前管理
 *術日の朝食および昼食は中止し、脱水予防のため点滴を行っておく
 *術前に呼吸器感染症の再発の有無をチェック(熱型,喀痰量等)
 *術前投薬は、ペンタゾシン(ペンタジン、ソセゴン)とヒドロキシジン(アタラックスP)を術前30分前に筋注し、必要に応じてジアゼパム(セルシン、ホリゾン)の投与を行う。しかし鎮静剤の投与は、誤嚥を誘発しやすい傾向にあり,出来うる限り避けるべきである。
2)術中管理
 胃瘻造設手技は容易である。しかし、仰臥位にて内視鏡挿入を行うことは、口腔内に貯留した唾液の誤嚥を惹起しやすいといえる。よって,内視鏡挿入中は、口腔内吸引用の吸引器を用意し、口腔内貯溜液の吸引を適宜行う。また術中は心臓のモニターと、出来ればパルスオキシメーターによる呼吸器管理を行う。
 
14.PEGの術後管理(図6)
  PEGの術後管理については,様々な意見があり一定のものはありません.米国においては,術直前に抗生剤の静注投与を一回のみ行い,術日に帰宅,翌日より経腸栄養剤の投与を開始するのが通常の方法のようです.しかしこの管理は入院治療費が高額となる米国ならではの方法であり,術後の合併症の管理面を考えると決して推奨できる方法とは思えません.図6に我々が行っている術後管理を示します.
 チューブ交換時期は,使用しているチューブの種類により変わります.一般的にはバルーンチューブで1ヶ月,その他のチューブで3ヶ月が目安です.
 
15.PEGの術後経過について(図7,図8)
  胃瘻は前述の如く多くの利点を有します.その中でも特筆できるものとして,経管栄養管理の簡便化と患者の苦痛軽減があげられます.その一例として筆者の経験をグラフに示します.PEGは経鼻胃管やIVHの様に,容易に自己抜去を行うことが出来ません.従ってそれらの管理でしばしば行われる抑制処置は,PEGに変えることにより中止または軽減する事が可能になります.(図7) また,特に経鼻胃管からの変更により不穏状態が改善する場合があり,前述ごとく抑制処置も軽減されることが多いことから,経口摂取が可能になる症例もみられます.(図8)
 
16.インフォームドコンセント
  PEGはその対象症例の大多数が,痴呆または脳卒中後遺症の症例であることから,術前の本人への説明がおろそかになりやすい傾向にあります.簡便かつ短時間で行いうるとはいえ,手術であることには変わりはないため,たとえ痴呆を有する症例であっても出来うる限り本人への説明を行うべきです.また家族に対しても,術後合併症についての説明は十分行う必要があります.ことに術後高頻度でみられる呼吸器感染症は,家族にとってはPEGと全く関係のない現象のように感じられる場合が多く,誤解をまねく原因になり得ます.クローン病や悪性腫瘍のように,対象症例の意識状態が正常な場合は,本人にPEGチューブの選択を相談した上で,使用するキットを決定する場合もあります.
 
17.悪性腫瘍へのPEG(表5)
  悪性腫瘍症例へのPEGの目的には,栄養瘻目的のものと減圧瘻目的のものとがあります。何れのものも対象となる症例は,手術不能な進行癌症例です.そのため適応に関してはより一層慎重に選択する必要があり,充分なインフォームドコンセントが必須と言えるでしょう.悪性腫瘍に対するPEGの効果について表5に示します.
 
おわりに
  経皮内視鏡的胃瘻造設術の合併症は稀なものではなく,その管理は他の栄養投与法とは異なったコツが必要とされます.しかし,経管栄養管理の簡便化,そして患者のQOLの改善を考えれば,その実施はきわめて有用な行為であります.
 前編においては,PEGの総論的な部分についての説明を行いました.次号では合併症とPEGの管理について詳細に説明するとともに,海南訪問看護ステーションで使用している介護者教育用のパンフレットをご紹介する予定です.
 

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